GoTo秘境駅
「快速しらかば号であの小和田駅へ行けるか」
まず最初に、飯田線に深くお詫びを申し上げなければならない。
GoTo秘境駅などとはしゃぎ浮かれていた己の愚かさ、飯田線へのリスペクトの不足、奥深さの無理解。飯田線はそんなワタクシtanakabuchの甘さを痛烈に叩きのめし強烈な往復ビンタを喰らわせた。
飯田線は、愛知県の豊橋駅と長野県上伊那郡辰野町の辰野駅を結ぶJR東海の地方交通線で、総延長195.7kmに何と94駅を擁す。平均駅間2.08kmは都市圏の鉄道並みだ。
天竜川に沿う道中には急坂・トンネル・鉄橋と、工事と保線の難所も多数、中には辰野駅を通り越してJR東日本中央東線の上諏訪駅まで98駅を6時間20分で走り切るタフな各停鈍行も有る。急峻な地形でスピードは出せないものの特急ワイドビュー伊那路も豊橋駅〜飯田駅間に投入されている。その他のローカル線とは一線を画し、全線電化されているので残念ながら走っている車両自体にはレトロ感と言った風情は無い。
そんな飯田線の、秘境駅が固まっている区間が大嵐(おおぞれ)駅(浜松市天竜区)〜天竜峡駅(長野県飯田市)間だ。ここには南から、☆小和田、☆中井侍、☆伊那小沢、鶯巣、平岡、☆為栗、温田、☆田本、門島、唐笠、☆金野、☆千代の各駅が有り、☆の7駅が「認定秘境駅」で、秘境駅ランキングの上位常連である。
中でも小和田(こわだ)駅は、下車したら集落まで1時間の山登りをしなければならない圧巻の立地で、エメラルドグリーンの天竜川のフチの、トンネルとトンネルの間の僅かな場所に何故か駅舎が有る。
しかし冒頭の反省のように、飯田線の凄さはこれだけでは無い。小和田駅から隣の中井侍駅までは電車ではたった4km5分だが、歩いて行こうとすると山登り1時間+林道を12km歩かねばならないのである。しかも林道から中井侍駅(長野県内で最も南に有り、県内で最も海抜が低い駅)までは、茶畑の農家の軒をかすめて、つづら折りの急坂を降りる必要がある。更には、その隣の伊那小沢駅までの天竜川沿いの道は崩落通行止めなので、またもや林道に戻っての高巻きを強いられる(4.1km、徒歩1時間以上)。
まだ有る。
難読駅名「為栗(してぐり)駅」は、駅へのアプローチが天竜川に掛かった人道吊り橋だけだし、金野(きんの)駅・千代駅はクルマで行けるものの県道から駅までの約3kmの林道は、クルマの運転にかなりの自信がある者しか受け付けない難儀極まる道だ。隣り合っている金野・千代両駅間は、電車なら2分だが、クルマだと16km45分も掛かる。歩けば4時間以上だ。
更に田本駅は、駅に降りる山道が崩壊封鎖されており、駅へ行くことすら出来ない。これでは電車に乗れないし、電車から降りても家へ帰れないではないか!
そんな面倒な駅たちを、飯田線は黙々と着々と、トンネルと鉄橋を駆使して最短距離で結ぶ。これが飯田線の凄さである。
閑話休題、
今回の飯田線秘境駅旅は「快速しらかば号(My自転車)であの小和田駅へ行けるか」をテーマに、併せて前述7つの秘境駅を、中間の平岡駅前の村営駐車場にクルマを停めて自転車でのんびり回ってみよう、等と言う超呑気な発想から始まった。下調べの段階で小和田駅へ自転車では行けないことはわかったが、強敵は小和田駅だけでは無かった。私は、飯田線の前では余りに無力だった。
今回の旅で3人の同好の士を見かけた。
ひとり目は小和田駅からの登山道をヒィコラいいながら登っている時、ミニベロ(小型折り畳み自転車)を抱えて降りて来た若者。どこでチャリに乗るのか尋ねたら、大嵐駅から下降地点まで漕いで来て(猛烈な上りの約14km、クルマでも1時間掛かる)、小和田駅から次の電車に乗ると言っていた。その後確か金野~千代駅間の反対車線の急坂でミニベロを一所懸命押しているのを見かけたから、奴は小和田駅1117発の電車で1204千代駅下車から金野駅を目指していたと思われる。何ともタフな奴である。
タフと言えば次の同好の士(30~40代?)は小和田駅をtanakabuchより30分ほど早く登り始め、その後tanakabuchも上がった後に降下地点の上で見かけた。tanakabuchはクルマで中井侍駅に着いて、中井侍駅を通過する特急の動画を撮ったりしていた。課題を終えて林道へ上がるとその氏が中井侍駅に向かって下り始めていた。小和田駅上から約12km、走って来ないと計算が合わない。どうやら飯田線の秘境駅鉄はバイタルも強いらしい。
3人目の同好の士(若者)はその中井侍駅のベンチにひとり座り、約30分後に到着する天竜峡行き電車を、本を読みながらじっと待っていた、打って変わってエコタイプ。tanakabuchは1054頃にやや遅れて通過した特急ワイドビュー伊那路2号の動画撮影をしたが彼は撮ることも無く座ったままであった。乗り鉄専門なんだろうか。
今日2020年11月15日は1年振りに急行秘境駅号が走る日(春の便はコロナ騒ぎで休止になった。今年で10周年)。乗り鉄も撮り鉄も集まりたくなる日だが、色んな奴が居るもんだ、わしも含めて。
中井侍駅の後は計画通り、伊那小沢駅、為栗駅、金野駅、千代駅と北上し、事前に到達出来ないとの情報が有った田本駅以外の秘境駅を制覇した。
ここでこれら秘境駅の乗客数を見てみよう。
小和田駅 2020年秘境駅ランキング 3位 一日の乗車人員 5人
中井侍駅 11位 8人
伊那小沢駅 75位 3人
為栗駅 14位 10人
田本駅 6位 5人
金野駅 7位 0.44人
千代駅 23位 2人
やはり集落から一番離れている金野駅が王者だ(何とかクルマで行けちゃう秘境駅)。小和田駅は雅子さまのご成婚ブーム以来の乗り鉄が「乗車人員5人」を支えているに違いない。
改めて当日朝のスケジュールから振り返るとこうなる。
11/15(日)
0300に起きて0330出発予定のところ、0200に目が覚めたので自転車を積み込み、府中の自宅を0240に出発
ガラガラの中央道を西へすっ飛ばし、
0440 駒ケ岳SA
0505 片桐ダムでダムカード用自撮り、まだ真っ暗、気温0℃
0550 道の駅信濃路下條で脱糞、仮眠しようと思ったが明るくなったので移動開始
0705 伊那小沢駅に到着。クルマを停められるスペースがあることを確認。ここからの当初プランはこうだった
① クルマで小和田駅下降地点まで行き、自転車をデポする
② その後クルマで伊那小沢駅へ引き返し、1001の飯田線に乗車、1011小和田駅着。ここから小和田駅エスケープ作戦で山道を林道まで登り、
③ デポしておいた自転車で中井侍駅見物経由で伊那小沢駅へ戻る
挫折した。
正確には、熟考の末に安全策を取ることにした。
伊那小沢駅から小和田駅下降地点までクルマですら45分掛かった。アップダウン激しく落ち葉の積もった狭く滑り易い林道。ここに自転車をデポしてまた同じ時間を掛けて伊那小沢駅へ戻り、その後電車→小和田駅徒歩エスケープ→自転車は余りにリスキーに感じた。ガードレールの無い林道、転げ落ちたら一貫の終わり。単独行じゃ恐ろしい。そろそろトシも考えるべきだ。
足場の悪い道を辿って、
0755 降下地点発
帰りが嫌になる下り急勾配の連続だ。2.8kmの間に標高330㍍から600㍍へ270㍍登るんだから勾配率は10%、下りだって急斜面だ。
こんな荒れた下りが延々と続く。帰路を考えると嫌になる。しかしこれが電車に乗るための駅へ続く道とは.. |
通路崩落の一か所は、川沿いに迂回させられる。水量は少ないが沢も渡らなければならない。
0830 小和田駅着 駅の手前で前述の、同好の士②とすれ違った
豊橋行き電車の到着(0833)に間に合った。
ともかくやって来た、小和田駅へ! |
小和田駅を上からドローン空撮したかったがちょうど保線作業員が4人居たので自粛。架線も有るから飛ばすのは危険だった。
打ちひしがれ感満点 |
小和田駅慶祝シリーズ(結婚式を挙げた猛者カップルも居た模様) |
慶祝シリーズもう一丁!せっかく背負って行ったがドロンジョは飛行自粛 |
お約束の廃ミゼット、製茶工場跡。お茶を売っていたのか、レジも転がっている |
暫く駅周辺を散策の後に、覚悟を決めて登山開始。
帰りの登りはたっぷり1時間掛かった。浮石で右足の親指もくじいて、杖を頼りの辛い登り。林道が見え始めたところでミニベロ担いだ同好の士①とすれ違う。ようやく林道に上がるとさっきの同好の士②が居た。
ミゼットが走れた道はここから左だったのだろうか、それとも道路は天竜川の川底へ沈んだのか |
ステップが組まれた迂回路と、赤い人道橋 |
降り始めて5分くらいの処にある怖い廃便所 |
0950 ほうほうの体で車に戻り息を整えてから、中井侍駅へ向かう
1032 中井侍駅下降地点
1054 やや遅れてやって来た豊橋行きワイドビュー伊那路2号の中井侍駅通過シーンを撮影。
駅のベンチに同好の士③が座っていた
1100頃 林道へ戻る途中に同好の士②とすれ違った。健脚で有る
1114 伊那小沢駅を経て鶯巣(うぐす)駅、ここはなんてことの無い駅で秘境駅ではない
1144 為栗駅アプローチの吊り橋対岸に駐車
1147 吊り橋を徒歩で渡って為栗駅着、8分ほど遅れてやって来た飯田行きワイドビュー伊那路1号の通過シーンを撮影
為栗駅へ唯一のアプローチの吊り橋 |
1247 金野駅。県道から3kmのアプローチ(もの凄く狭い林道)は上級者限定。クルマで行けない小和田駅とは趣は異なるが、秘境駅感はこちらの方が上。
クルマでリーチ出来る超稀有な秘境駅、金野駅 |
1308 千代駅。金野駅ほどでは無いがこちらのアプローチも上級者向け。高速(三遠南信自動車道)脇から入るので楽勝かと思いきや、これがまたなかなか。金野駅には当日3組の先行到着者が駅ノートに記されていたが、千代駅はtanakabuchが初の記帳だった
腹が減ったので道の駅信濃路下條でソースカツ丼そばセットの昼飯
飯田市内の富士山稲荷神社でこの旅唯一の御朱印
1524 松川ダムで片桐ダムと2ヶ所分のダムカードをゲット。コロナ騒ぎで休止していたダムカード配布も、ちょうど11月から再開されてラッキーだ
1625 小渋ダムでダムカード
1657 市田柿の地元市田駅を表敬訪問。ちょうど干し柿出荷シーズンで、後刻、道の駅で美味そうな市田柿とあんぽ柿を入手した
1825 平岡駅の食堂で晩飯
秘境駅号の運転に合わせて、平岡駅前では秘境駅イベントが開催されていた |
ここまで、本日の走行距離はちょうど500km
この旅の成果物
秘境駅号10周年記念切手シート(記念入場券は既に売り切れ)を美和郵便局で入手
ダムカード 発電所カードを入れて何と16枚と大量!
片桐ダム
松川ダム
小渋ダム、第1・第3発電所
平岡ダム
美和ダム、美和発電所、美和ダム再開発(建設中)、三峰川総合開発事業
高遠ダム、高遠さくら発電所
箕輪ダム(もみじ湖)
横川ダム、横川蛇石発電所、〃竣工記念
富士山稲荷神社の御朱印
偉大なる飯田線の起点・終着「辰野駅」入場券
各地での見事な紅葉
飯田線電車の勇姿&各秘境駅の光景はプライスレス
久々の登山をしたお陰で翌日からは腿の筋肉痛に悩まされた
今回の教訓
秘境駅へは列車で行きましょう!
大嵐駅から途中各秘境駅を経由して千代駅に着くには78.3km(小和田駅下り登りを除く)。土地鑑も付いたし次回は快速しらかば号でやっつけようかナ。やっぱ列車かな~ |
決行日 2020年11月15日(日)
苦悩の小和田駅登山を除けば至って心地の良い、晴れの一日
(了)